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老後の生活費 年金について


老後にかかる必要な費用について


老後にかかる必要な費用について
老後にかかるお金については、「生活に欠かせない必要なお金」と「生活の充実のために使うお金」に分けて考えましょう。
一般的に老後資金として必要なお金の代表選手は、年齢と共に増大する可能性が高い「介護費」や「医療費」が挙げられます。
介護・医療に関わる費用が増えるのは避けられませんが、自己負担分は介護保険制度や後期高齢者医療制度(75歳以上が加入)などの公的な仕組みにより、一定程度の緩和措置が用意されています。 しかしながら、将来の介護・医療費増加を不安視して、生活の充実に充てたお金を節約に回すなど、危機感を持って捉えている方も皆無ではないと思います。
平成29年度の家計調査によると家計支出に占める保健・医療費の割合は、全世帯平均の4.6%と比べると60歳代で5.1%と0.5%、70歳以上6.4%とでは1.8%の上昇となっています。 年齢の上昇により保健・医療費の支出構成比も上昇していますが、詳細費目をみると「医科診療代」が60歳代で49,479円/年であったのに対して、後期高齢者医療制度の1割負担の影響もあり、70歳以上では47,848円/年と若干低くなっています。
また、医薬品購入費用に関しても60歳代35,323円/年、70歳以上36,005円/年と若干の増加はあるものの、月額あたりでは約57円の負担増となっています。 同様に「他の諸雑費」に分類されている介護サービス費は、60歳代で7,462円/年であったものが、70歳以上では14,704円/年と倍増しています。 しかしながら、月額換算すると約1,225円/月であり、支出全体に占める割合でみると懸念するほど大きな負担増にはなっていません。
家計調査 平成29年(二人以上世帯)世帯主の年齢階級別年間支出金額
70歳以上 構成比 60歳代 構成比 全世代平均 構成比
食料品 \908,956 32.3% \1,015,478 29.2% \946,438 27.9%
住居費 \169,401 6.0% \197,890 5.7% \198,771 5.9%
水道・光熱費 \254,294 9.0% \272,329 7.8% \258,427 7.6%
家具・家事用品 \116,956 4.2% \148,979 4.3% \129,948 3.8%
被服・履物 \89,097 3.2% \133,170 3.8% \137,673 4.1%
保健・医療 \178,790 6.4% \176,766 5.1% \155,449 4.6%
交通・通信 \290,139 10.3% \524,814 15.1% \478,561 14.1%
教育 \4,422 0.2% \16,341 0.5% \132,801 3.9%
教養・娯楽 \293,894 10.4% \378,719 10.9% \352,292 10.4%
その他 \509,588 18.1% \616,516 17.7% \605,970 17.8%
支出合計 \2,815,536 \3,481,003 \3,396,330
(※総務省統計局『家計調査 平成29年(二人以上世帯)第4-6表世帯主の年齢階級別1世帯あたり支出金額、購入数量及び平均金額』より)
高齢期の支出において特徴的なのは、子育てが終わったと思われる60歳以降は教育費の負担が激減して、その分のお金を食料品や交通・通信、教養・娯楽、プチ贅沢な食事、あるいは旅行・趣味といった生活の充実に使う傾向がみられることです。 この傾向は、70歳以上となると「お金を使うと不足するかも?」という不安が芽生え始めるのでしょうか、少々様変わりするようで切り詰めた生活の様子が伺えます。 食が細くなることと相まって「食料品の支出を下げ」、身だしなみにそれほどお金をかけずに「被服・履物を節約」、めっきり外出の機会を減らして「交通・通信を使わず」、教養・娯楽、理美容代や小遣いなど「その他支出を減らす」という変化が、多少なりともこの調査結果に現れていると言えるのではないでしょうか。 もちろん、「年金」頼みの生活を起因とした収支の不均衡に陥っているケースほうが多数であると推察します。
以下の表は公的年金の受給金額にまつわる調査結果です。
年金制度基礎調査 平成28年公的年金の受給状況調査
公的年金額(男性) 公的年金額(女性) 公的年金額(男女合算)
65歳未満 94.9万円 36.9万円 131.8万円
65歳以上 177.8万円 104.1万円 281.9万円
70歳以上 192.4万円 108.1万円 300.5万円
75歳以上 207.6万円 114.6万円 322.2万円
80歳以上 207.2万円 126.8万円 334.0万円
85歳以上 213.5万円 135.4万円 348.9万円
90歳以上 201.3万円 123.7万円 325.0万円
※上記公的年金額の男女合算は単純合計であり、夫婦世帯の受け取り年金額とは必ずしも一致しません
前述の「家計調査」と「年金制度基礎調査」をもとに、筆者なりに試算をしてみました(異なる調査のため単純に収支計算をしても実態と異なる場合があります)。 「年金制度基礎調査」における65歳以上の方の男女合算年金額281.9万円の収入に対して、「家計調査」の結果による60歳代の方の支出金額は348.1万円と約66万円の赤字です。 ところが、75歳以上では、年金収入322.2万円に対して281.6万円の支出と約41万円の黒字という試算になりました。
年金の受給状況を見ると、年齢が上昇するにつれて受け取る公的年金額も多くなっています。 一方、支出金額のほうは年齢の上昇とともに抑えられる傾向があり、収支の逆転現象に至ったと考えられます。
少子高齢化が加速する中で、今後の受給年金額は減少の懸念はあれども増加は見込めません。 また、年金受給の世代間格差という不公平感が存在するのも事実です。とはいえ、老後の問題を放置して他人任せの状態では解決策も限られます。
元気に働ける間は一定程度の資産を蓄えて、老後はそれを計画的に取り崩すことを視野に入れましょう。 なおかつ、「お金(=生活)のため」のみならず、「社会貢献」や「社会との関わり」、「生きがい」、「やりがい」など、老後の時間を有効に使うための活動にも取り組み、いずれ訪れる「老後に向けた備え」としたいものです。

参考
総務省統計局:家計調査 平成29年(二人以上世帯) 第4-6表世帯主の年齢階級別1世帯あたり支出金額、購入数量及び平均金額
厚生労働省:平成28年年金制度基礎調査 性別・本人の年齢別階級別・本人の公的年金額階級別受給者数

老後難民にならないための回避策

定年などにより退職して年金生活となった方が、経済的に困窮することを称して「老後難民」と呼ばれるようになり、社会問題の一つとして取り上げられています。 老後難民の回避策は、単純に考えると「支出 < 収入」という家計状況が生涯続けば、何も問題は発生しません。
65歳以上の支出入状況
公的年金額(本人+配偶者) 平均支出額(月額) 収支
約4.2万円未満(50万円/年未満) 11.7万円 △7.5万円
約4.2万円未満(50万円/年未満)約4.2~約8.3万円(100万円/年未満) 13.6万円 △9.4~△5.3万円
約8.3~12.5万円(150万円/年未満) 16.5万円 △8.2~△4.0万円
12.5~約16.7万円(200万円/年未満) 17.5万円 △5.0~△0.8万円
約16.7~20.8万円(250万円/年未満) 20.7万円 △4.0~0.1
約20.8~25.0万円(300万円/年未満) 23.9万円 △3.1~1.1万円
25.0~約33.3万円(400万円/年未満) 26.2万円 △1.2~7.1万円
約33.3~約41.7万円(500万円/年未満) 29.7万円 3.6~12.0万円
約41.7万円以上(500万円/年以上) 39.9万円 7.8万円
※公的年金額は、年額の受給額を1ヶ月あたりに換算
平成28年の年金制度基礎調査をみると、世帯の年金額(本人+配偶者)が月額20万円を超える年金受給世帯においては、極力支出を抑え収支が均衡するように工夫している様子が伺えます。 その一方で、月額年金額が20万円を下回る世帯においては月次の収支は赤字となっており、生活苦という「絶対的な老後難民」に陥り易い状況にあるといえます。
同調査によると、65歳以上の月額平均支出は23.4万円であったものが、70歳以上になると22.2万円、75歳以上21.1万円、80歳以上18.6万円と年を重ねるにつれて減少傾向がみられるものの、収支が赤字の家計が黒字に転換するほどではないようです。 収支を均衡させる工夫をしている様子が伺えるとしても、年金額400万円以上の高年金世帯を除けば、それはあくまで必要に差し迫られて対処しているに過ぎず、本来ならばもう少し「ゆとりを持った生活をおくりたい」と考えているのではないでしょうか。
老後難民にならないためには「最低○○万円必要」などと、一部には不安を煽る報道も見受けられますが、必要金額はともかく、一定程度以上の蓄えを計画的に取り崩すこと、そして、生活の充実を図ることを想定した老後貯蓄は不可欠といえます。 仮に年金収入の範囲内で生活費を賄うとして、65歳から80歳までの15年間、生活の充実のために使うお金を月額5万円と仮定すると 5万円×12ヶ月×15年間=900万円 が「必要金額」になります。この仮説シナリオをもとに、予備費を数十万円から数百万円程度を加えておけば安心感は高まります。 しかし、注意しなければならないのは、このシナリオはあくまで月額5万円という定額を使った場合であり、この通りにいくとは限りません。
基本的な考え方は、基本生活費などを賄う「必要なお金」と欲しいor便利or快適のために使う「ゆとりのためのお金」を分けて管理することです。 「必要なお金」は、年金受給額にもよりますが可能な限り年金で賄う意識を持ち、「ゆとりのためのお金」は蓄えを計画的に使うように心掛けましょう。
そのためには、老後を迎える前にコツコツとお金を積立てて残しておかないと、ゆとりのためのお金が不足する「精神的な老後難民」になりかねません。
平成29年1月よりスタートした「個人型確定拠出年金(iDeCo)」は、加入者範囲が拡大され、原則として20歳以上60歳未満の方が全員加入できるようになりました。 この制度を利用すると、原則として掛金上限が決められており、「60歳以降にならないと引き出しができない」という制約がつくものの、次のような税制上のメリットがあります。
1. 掛金は、全額所得控除
2. 運用益は、非課税
3. 一時金受取りの場合は退職所得控除、年金受取りの場合は公的年金控除の対象

ですので、老後資金の準備に向けた選択肢の一つとして挙げられるでしょう。しかし、税金上のメリットが大きくても、掛金は加入者本人が預金や投資信託等で運用しなければなりません。 安易にリスクが高い投資信託を選択した場合、市況が悪化すると「損失を抱える」可能性も否めません。他方、安全を優先しすぎて預金・保険商品に片寄って運用すると、「期待ほど増えない」ということも想定されます。 運用のイロハ程度は勉強をして、最低年に一度くらいは運用状況を確認するようにしたいものです。同様の資産運用策として、少額投資非課税制度(通称NISA)を利用した手法なども候補となります。
その他、金融商品の運用のみならず、持家を購入しており住宅ローン返済中の方であれば、繰上げ返済など実質的な負担軽減策なども挙げられます。 住宅ローン繰上げ返済の効果は、例えば借入金残高3,000万円・適用金利1.0%・借入残存期間30年のケースで100万円の繰上げ返済を実施した場合(期間短縮型)、返済期間は約14ヶ月短縮、約30万円超の利息の削減効果が見込まれます。 これを幾度か繰り返せば、年金生活に突入する前にローンの返済を終了させる、という期待が持てます。 さらに100万円に対して30万円の利息削減効果があるということは、30%の見えない利息を得たことになり、資産運用などのリスクを取ってお金を増やす工夫よりも、安全・確実な運用といえます。
老後難民の回避のための準備策を整理してみましょう。

老後難民の回避のための準備策を整理してみましょう。
1. 最初は、少額の積立からはじめる
2. 無理ない金額に止め、長い期間続けることを優先する
3. 毎月一定額を決めて、天引き貯蓄や自動引落し預金等に積み立てる
4. 残ったお金を貯めようとしない
5. 貯めた(運用)お金は、目的以外には引き出さない
6. 資産運用やローン返済など、選択肢を知る
7. 決して無理をしない

金融商品を選択する場合には、売り手(販売サイド)の情報を鵜呑みにせず、複数の売り手の情報を比較・検討するようにしましょう。 売り手の情報は、「買って欲しい」という部分に力点が置かれ易く、必ずしも買い手(購入者)にとって最適な情報提供とは限りません。 販売を手掛けていない中立・公正な立場の専門家に相談して参考にする、という方法も良いと思います。

参考
厚生労働省:年金制度基礎調査(老齢年金受給者実態調査)平成28年
厚生労働省:iDeCo(個人型確定拠出年金)の概要

公的年金について

公的年金とは、「働くことのできない人」を社会全体で支える仕組みです。この公的年金における「働くことのできない人」とは、以下を指します。
1. 高齢 ⇒ 老齢年金
2. 身体障害 ⇒ 障害年金
3. 働き手を失ってしまった配偶者およびその子ども ⇒ 遺族年金

日本の年金制度は、少々複雑に感じられる方が多いかもしれません。上記の仕組み図は、年金加入者を表しています。
年金の加入者は、20歳以上60歳未満の方すべてが加入する基礎年金部分(国民年金)会社員や公務員が加入する厚生年金の2階建て構造になっています。

加入者は、第一号被保険者・第二号被保険者・第三号被保険者の3種類に分けられており、その方の属性により以下のように区分されます。
第一号被保険者
20歳以上60歳未満の日本に住んでいるすべての方(自営業・学生・無職など第二号、第三号被保険者以外の方が該当)⇒国民年金保険料の納付
第二号被保険者
会社員や公務員などお勤めの方⇒厚生年金保険料は給与天引き(基礎年金保険料相当額込みの厚生年金保険料を雇用主と従業員が折半で負担)
第三号被保険者
一定の要件を満たした第二号被保険者の配偶者(専業主婦など)⇒国民年金保険料相当額は納付免除

国民年金の保険料は、原則として加入者全員定額(平成30年度価格16,340円/月)です。 厚生年金の保険料は、収入金額に対して定率(厚生年金基金加入者を除く一般加入者・平成29年9月以降平成30年3月までの適用分18.3%)を掛けて算出された金額を雇用主と折半して、給与天引きという方法で自己負担分を納めることになります。
老齢基礎年金(国民年金部分)の受給年金額は、加入年限(月数)に応じて定額を受給する仕組みです。その額は加入期間40年の満額で779,300円/年(平成30年度)です。 厚生年金加入者の老齢年金は、加入期間に応じて定額受給となる基礎年金(国民年金部分)に加え、平均標準報酬月額と納付月数に一定の料率をかけて計算される老齢厚生年金(報酬比例部分)をあわせた額を受給します。
公的年金イメージ図

このように日本の年金制度は国民年金厚生年金に分かれていますが、転職・結婚などで第一号・第二号・第三号被保険者の加入区分が途中で変わることもあります。 その場合、老後に受給する老齢年金額は、国民年金(基礎年金)と厚生年金それぞれの加入期間の保険料払込み期間に相当する年金額を合算した額が受給額となります。 また、従来は国民年金と厚生年金を合計した加入期間が25年(300ヶ月)以上ないと老齢年金を受給することができませんでしたが、平成29年8月より、最低加入期間の制約が10年(120ヶ月)に短縮されました。 しかし最低でも10年(120ヶ月)に相当する国民年金または厚生年金の保険料を納めないと、老齢年金は受給できませんので注意しましょう。 とはいえ、加入期間が最低年限10年しかない場合は、驚くほど年金額は低くなりますので、家計の維持は難しくなります。 公的年金は、老後・障害・遺族とそれぞれの状況を想定した生活費補填という役割を担う仕組みです。
公的年金で「遊んで暮らす」という幻想を抱けないことは誰しも理解していますが、とりわけ老後費用の補填という期待を持たれる方は多数に上ります。 年を重ねれば誰しも肉体的・精神的な衰えは避けられません。 高齢に伴う金銭的なリスクは、働けなくなったあと収入が途絶えてしまうと、たちまち生活が立ち行かなくなるということです。 子どもなど家族に「生活の面倒を見てもらう」あるいは「老後の資金を蓄えておく」といった対処法も考えられますが、必ずしも老後を迎えた全員の方が快く家族に面倒を見てもらえるわけではありません。 また、数十年以上の長期間になる可能性がある生活費を自ら蓄えるのも難しいと思います。
「年金不安」が叫ばれる中、その不安を完全に解消することは期待薄かもしれません。 しかしながら、少なくとも公的年金の仕組みにより、働けない方へのリスクが多小なりとも緩和されている、ということだけは間違いないでしょう。 公的年金の活用を念頭におき、保険料を納付して老齢年金を確保する、そうした土台を築くことが不可欠になります。 同時に公的年金以外にも、コツコツと積立の実行や個人型確定拠出年金・民間の年金保険への加入など、様々な手法を取り入れながら老後の資金を準備しておきましょう。

参考
厚生労働省:「公的年金制度の仕組み」
お役立ちガイド